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2013年1月 6日 (日)

舟を編む

三浦しをん著
舟を編む
これは辞書をつくらんがために奮闘する編集者の物語だ。
言語という大海原に漕ぎ出す指針、道具としての舟。
それが辞書。だから「舟を編む」。

物語は、辞書作りに情熱をかたむけている碩学の先生と、それを支える退職間近の編集者が、自らの後任を社内から人選するところから始まる。

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選ばれたのは、鋭い言語感覚があるゆえに、営業部内ではいまいち周囲と波長が合わない馬締君。
彼の辞書作りにむいているセンスを見抜いたのは、営業的センスに満ち溢れているが、言葉に対する感性の乏しい西岡君だ。
仕事というのは、人によって成し遂げられるという当たり前のことを改めて思ったなあ。
この地味なテーマにみえるこの小説が、本屋大賞受賞で昨年度最も売れた本ということ。
装丁も辞書っぽいつくりで、めくりやすい。帯が漫画的で面白い。松田龍平、宮崎あおい主演で、映画化される。さもありなん。
エピソードのつくりはさすがうまい!
住んでいるアパートの大家さんの孫の女板前、かぐやさんとの恋愛模様や、ちゃらい西岡君のつかず離れずの彼女との結婚、10年後に配属された岸田さんが製紙会社の営業マンと惹かれてあっていく様など、エンターテインメントとして女性の共感をおおいに得る部分なんだろうね。
俺は「血汐」という言葉が辞書から漏れており、緊張が走りながら、大量の学生バイトを雇用しながらの、漏れを探す「地獄の合宿」や用紙を決める際の「ぬめり感」をめぐる製紙会社との攻防に、リアリティを感じてしまった・・・俺もこんなことばっかりしている・・・
この作者の小説読むのは2つ目だ。うまいなあ。
前に読んだ「風が強く吹いている」という箱根駅伝を走る学生の物語にも感じたのだが、作者のテーマに、人の能力とは何かという根源的な問いかけがあると思う。
どうもニュアンスとして、学校や世間様の評価基準への疑問をずっと考えてきている人、という感じがする。
たとえば、作者のこの物語れる能力を、世間様はいかに評価するか?
おそらく、人気があるとか、よく売れて稼いだとかいう観点から、うらやましいとか、あやかりたいとか、こういうことだけで評価していないか?
この作者は、いい学校にいけ、いい嫁になれ、いい母にもなれといった世間からのプレッシャーを強く感じていて、自分のしたいこと、自分自身が感じている能力と、世の中が自分に求めているものに、齟齬をずっと抱いていたんではないだろうか?
私は世間が求める人間になれそうにないし、私が持っているものをどう発揮して、どう評価されるかということをずっと考えていたい、そういう方なのではないだろうか?
このモチーフこそ最大の共感ポイントのようにも感じる。
好きこそ物の上手なれ、というが、人は熱心になれるものが必ずあると思うんだが、それがどういうものかは千差万別である。
そこに、価値観の共有できる人間がいるということと、対象物をたゆまず追求していけるということ、この二つが、なにごとかを突破する際には必要になるんじゃないかと思う。

それは、辞書を作ることも、板前としてうまい!と言わす料理をつくることも同じことである。
もうちょっと考えてみる。
大きなホームランを打てることに何の意味があるのか?そこに野球を通じて感動したい、という価値観の共有があるから、能力と認められるのだ。
でも、そういう評価を受けない能力もある。時代や地域。また、その能力の表現によって。
ゴッホの絵は当時はまったく評価されなかったと思う。
埋もれたゴッホがどれだけいることか・・・
でも、いいじゃん!そんな辛気臭く考えなくても、楽しくやれれば!と思えることも能力のひとつだね。
そうだ!そうだ!と価値観を共有できれば、それでいいんだ。それも答えのひとつだ。テキトーの代名詞、西岡君も何かの触媒といっていいような仕事を果たす。ふっと人と人を結びつける。
翻って自分を考えてみる。
俺は、主体として突き詰める部分と触媒としての役割をはたす自分、両方持っていたいと願うタイプの人間なんだと自分で思ったね。
こんなことは、この作者の作品に接するまで意識したこともなかった。
この作者には、読者の眠っているものを言語化させ、はっきりさせてしまうという力がある。
これが彼女の”文体”だし、能力だと思う。

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コメント

この本、本屋さんの結構目立つ位置においてありますね。
そうだったのか。そういう作品だったのですね。
世の中には中身を知らずして縁なく去って行く本の多いことよ。

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

三浦しをんさんが描く人間関係って、とても素敵です。
まさに人間「模様」・・・人の手で編まれた模様のようで、触れると温かみを感じるんですよね。
それから しをんさんが選んで使う言葉も好き。こういうのって理屈ではなく、心の網目にフィットする、そんな感覚です。

「舟を編む」の映画公開は4月半ばですよね。
私の仕事は4月~5月初旬までは多忙の極み、更に今年は二人の受験生が落ち着くまではそれに徹しなければなりませんが、そういうものが済んだ頃、この映画を観に行けたらな~と思っています。

暫くの間、受験生に添うためにブログはお休みします。
が、「舟を編む」のお話にはどうしても参加したくなってコメントさせていただきました~^^

ojさん、てに取るとふっと惹きこまれて読んでしまうんですね。
確かに自分では買わないが、実家のラックにあって元旦に読了してしまいました。
最近女性の作家がいいねえ。

きよっちさん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
この作家はうけるだろうなあと思いますね。確かにディティールの言葉が暖かいし、安心感があるんだよなあ。
特に女性はあうと思いますね。
さて、お忙しくなる旨、わかりますわあ。がんばってくださいね。
こちらは何とか続けてみます。時々寄ってみてください。楽しみにしてますね。

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