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2012年1月31日 (火)

北杜夫氏の訃報も…

この人も亡くなったか…

随分好きでしたねえ。お父さんが医者で歌人の斎藤茂吉、お兄さんが精神科医の斎藤茂太。医者の家系なんだねえ。

ご自身も医者で、船医として水産庁の調査船に乗り込み、見聞した世界を「どくとるマンボウ航海記」で上梓し、ベストセラーに。

さらにその年「夜と霧の隅で」で芥川賞受賞。初の直木賞との同時受賞かと騒がれた。

自身躁鬱病と認め、起伏の多い行動と文章で、大笑いさせられるんだけれど、どこか屈折感や哀愁が漂うのだ。

どくとるマンボウシリーズは全部楽しかった。特に青春記が好きだったかなあ。

以外に私小説的で、強烈な父親から脱出するように、東北大学医学部に進み、そこでの破天荒な寮生活を活写したものである。まあちょっとジブリの「コクリコ坂から」にも近いね。

作家の辻邦生やトーマスマンなんかは北杜夫氏に教えてもらった。ゲーテの「疾風怒濤(シュトルムウントドランク)」なんて言葉もね。この言葉、今の瀬戸西ラグビー部のユニフォームのパンツについてるじゃん!

なんか大正ロマンを彷彿とさせるんだよなあ。面白いよ。

他にも、「楡家の人々」や「幽霊」「木霊」「白きたおやかな峰」「さびしい王様」なんかが有名どころかなあ。

全部好きだったね。特に「楡家の人々」。

三島由紀夫が激賞していたけれど、こういう家族一代記なんかは絶対今までの日本になかったね。家族それぞれ主人公の章立てと、戦争に巻き込まれていく歴史のうねり…本人はトーマスマンの「ブッテンブロークス家の人々」と「チボー家の人々」を意識したといってましたが、この家族がいて、この筆力があって、初めて成立した日本の家族小説の金字塔だとすら思うよ。

あと、きっと佐藤愛子の「血脈」かな。実はまだ読んでいないんですが。これは、佐藤紅禄、サトウハチローの暴露ネタっぽいのかなあ。

当時の作家は、戦後の文学から第三の新人と言われた世代が注目されていて、遠藤周作、安岡正太郎、小島信夫、庄野潤三、吉行淳之介なんかが有名どころだった。

開高健と大江健三郎なんかも鍋に入れられていたかなあ。遠藤周作の「ぐうたら交友録」に詳しい。

北氏はちょっと傾向が違う感じで、開高氏や大江氏が、華々しくマスコミで発言したり、論戦を挑まれたりしているのをみて、もうちょっと北氏に注目しろ!と俺は心で叫んでいたけど、今から思うと別に騒がなくてよかった。長生きしてくれたし、キャラが違うし。

自分はまだ過去を振り返るのは早い!と思っているのだが、訃報に接すると否が応でも故人をしのんでしまう。

俺は、戦後の知識人の重たい議論、戦争で受けた傷のようなものからでる思いには直接的アイデンティティを持つ世代ではない。むしろ高度経済成長のひずみを体感した世代なんだと思う。俺の世代の中学生ぐらいの時は、北氏のこののびのびしたいいところの坊ちゃんのような、面白いことばかり言う大人として、彼の文学を受け入れたんだと思う。と同時に、表裏の関係としての「幽霊」「夜と霧の隅で」的世界をね。

やはり、北氏には戦争の影をひきづり、また、手荒な世間から逃れたくて内向してしまう部分もあった。それは当時の俺でもよくわかった。

おどけるのが、いかに必死の作業であったか。面白いことをいうやつの心の寂しさが見えるような気がしたのは、北氏に教えてもらったことなんだろうね。俺自身も転校生として、世間様にどう向き合うかは必死の思いだったからね。

また、逆に文学とは、自分のはらわたや傷口をまじまじと見る行為でもある。

それが「幽霊」「夜と霧の隅で」的世界なんだと思うし、どちらも真実である。

うん、何か吹っ切れた。

北杜夫氏の訃報に接し、心より哀悼の意を表します。合掌。

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コメント

どくとるマンボウシリーズはご縁無く来てしまいましたね。
亡くなって読み返すとまた違う感想が生まれそうです。

今日はありがとうございました。笑いっぱなしで楽しかったです。
カメラどうもすみません。今からワクワクです。またアップしますね。

お疲れさんでした。写真楽しみですねえ。この面白さはなんなんでしょう?
一眼は手軽ではないけれど、すごい実力です。
ハンドに通用するかなあ。
北氏については、世代が少し違うせいかなあ。もっとも入れ込んでいた人はまわりに自分以外にいなかったけれど…

北杜夫は、中学のころ流行りました。ほんと流行ったって感じで、そのときのイメージのまま来てしまいました。もっと深く読むべきだったかも。

SINOさん、同世代ですなあ。
幽霊と夜と霧の隅でで大分読み方が変わりましたね。
訃報も振り返るきっかけになってしまう。

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